平成20年6月2日
国際海運からの温室効果ガス対策について議論を行っている国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会(MEPC)の温室効果ガス(GHG)対策にかかる中間会合が6月下旬にオスロにて開催されることに先立って、世界単一市場である国際海運におけるGHG対策についての意見交換、検討を行うため、海洋政策研究財団(OPRF)とともに、関係国や関係機関を集め「国際海運からの温室効果ガス排出削減に向けた国際ワークショップ」を東京で開催いたしました。
日 時:平成20年5月30日(金)10時00分~17時00分
場 所:日本財団ビル2階(港区赤坂1-2-2)
関係国・関係機関
バグズリッド IMO海洋環境部大気汚染課長
リンデガード デンマーク海事局外航政策首席参事官
チャタジー インド海運局首席検査官 兼 技術審議官
ナン 韓国モクポ国立海事大学海事技術科 教授
オフテダル ノルウェー環境省汚染管理局参与
ネルソン 米国国務省 国際環境科学局
ベトゲ ドイツ 在英大使館(IMO代表)
井上幸一 国際海運会議所(ICS)代表 ((社)日本船主協会技術顧問)
日本側 大野海事局次長、染矢海事局技術審議官、安藤安全基準課長他
秋山海洋政策研究財団会長他
(1)各国・各関係機関等からのプレゼンテーション
各国ともに、国際海運からのGHG削減については、IMOが主導すべきという点に異論はなく、多くの国が、IMOは海運に関して技術面・運航面・法的な側面について長年の経験を有していることから、IMOでの検討を強く支持し、それに対する自国のコミットメントを示した。
また、CO2排出設計指標については、その作成に異論はなく、多数の国が支持した。
・ IMOより、船舶からのGHG排出削減にかかるIMOのこれまでの取り組みと6月の中間会合での検討項目等についての説明がなされ、IMOは関連業界及び関連する他の国連機関とも協力してGHG削減に取り組んでいくこと、また、UNFCCCのCOP15に先立つ2009年のMEPC59までにIMOのGHG対策として明確なメッセージを打ち出すことが必須である旨の発表がなされた。
・ デンマークより、GHG対策の一方策として、燃料油に課金して国際的に合意されたファンドにて管理し、排出権の購入・排出削減プロジェクトへの資金供給・IMOの技術協力プログラムへの拠出等に活用するスキーム案の紹介がなされた。
・ インドより、国際海運からのCO2対策は、共通だが差異ある責任の基本原則に基づいて実施すべきこと、及び、途上国の適応に関する資金供給システムが必要であることが指摘され、資金システムにおける輸出国(者)及び輸入国(者)の関与が示唆された。
・ 韓国より、船舶の燃費は他の輸送機関よりも良いが、技術的に改善の余地が大きいことが指摘され、各種の技術的可能性について説明された。
・ ノルウェーより、GHG削減対策として、新船へのCO2排出設計指標の強制化(数値基準を含む)、現存船への効率運航マネジメントプラン作成義務付け、CO2排出運航指標の報告義務付け、強制措置として個船ごとに排出権を付与・取引するIMO-ETS(IMO独自のEmission Trading System)が提唱された。
・ 米国より、米国国内での温暖化対策の取り組み状況の報告がなされ、IMOでの検討にコミットしていること、設計指標の合意が重要であること、全ての可能なオプションについて建設的に議論することが必要であることが説明された。
・ 我が国は、国際海運からのGHG排出削減のためには全ての国が参加しうる枠組みを構築すべきであること、個船のエネルギー効率の改善が最も有望な措置であり、そのために実海域を考慮したCO2排出設計指標を提案していること等を発表した。
・ ICSより、国際海運の成長は世界経済の成長に結びついており、国際海運の需要は世界中の消費者の需要であること、他の輸送機関から海運へのモーダルシフトの増加は世界全体のCO2排出削減になること等が指摘された。
(注)
●CO2排出設計指標: 船舶の設計・建造段階で、船舶の仕様に基づいて、トンマイルあたりのCO2排出量を事前評価して、各船に付与するもの。各船には一つの指標しかない。
●CO2排出運航指標: 船舶の運航中に、トンマイルあたりのCO2排出量を測定して得られる。各船についても、運航中に変動する。
(2)パネルディスカッション
上記発表と海洋政策研究財団の華山氏から国際海運からのCO2排出トレンドの説明後、ワークショップ参加者によるパネルディスカッションを行った。コーディネータは(独)海上技術安全研究所・国際連携センター長の吉田公一氏が務めた。6月の中間会合に先立って、主要国で率直な意見交換が出来たことから、本ワークショップを主催した日本に対して深謝されたほか、以下の点について、各国とも一定の認識を共有することが出来た。
・ CO2排出設計指標、CO2排出運航指標、排出削減のための運航上の措置にかかるベストプラクティスのガイドライン取りまとめ等、合意が比較的容易と考えられる措置(第一世代の措置)と、燃料油課金、ETS(排出権取引)等、中長期的に検討すべき経済的措置(第二世代の措置)に分けて、検討を進めていくべき。
・ 来年12月にIMOからCOP15に対して明確なアウトプットとして報告するため、第一世代の措置については2009年夏(MEPC59)頃までに合意を目指して検討を進めて行くべき。第二世代の措置については、2009年秋のIMO総会にて決議を作成し、その後の検討の方向性を明確に示すことが適切。
・ CO2排出設計指標の策定自体には各国とも前向きであったが、設計指標の基準値の設定等、指標を活用した強制的な枠組みについては、合意までの進め方やスケジュールを含めて温度差が見られた。
・ CO2排出運航指標についても、報告の義務付けについての見解の相違が見られた。
・ 減速航行、最適航路の選択等運航上の措置で即実施できるものについては、自主的に実施していくべき。大勢は、各船の仕様や運航形態によって最適な措置が異なるため非強制のガイドラインでベストプラクティスを記載すべきという意見であったが、運航上の措置についても強制化すべきと主張する国もあった。
・ なお、欧州を中心に、第一世代の措置として、新船への設計指標表示義務付けのみでは、不十分という意識が強い。
・ 途上国への支援スキーム等については、今後も検討が必要。
・ 国際海運業界は、GHG対策について前向きであるが、IMOでのGHG対策パッケージについては、関係業界と十分に調整した上で検討をすすめるべき。
(3)その他
ワークショップ開催前イベントして、5月29日に、海外からの出席者全員及び日本側関係者が、(独)海上技術安全研究所を訪問し、試験水槽などの施設見学のほか、日本から提案している「実海域を考慮したCO2排出設計指標」について意見交換を行った。