令和5年6月19日
国際水素サプライチェーンの商用化に不可欠な大型液化水素運搬船の実現(※1)に向け、日豪海事当局間で協議を行い、新たな貨物タンク断熱システムを含む液化水素の運送要件について合意しました。これにより、今後、大型液化水素運搬船の設計が行われることになります。 |
<経緯>
「液化ガスのばら積み運送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則」(IGCコード)に規定されていない液化水素の運送要件に係る暫定勧告(以下「暫定勧告」という。)が、国際海事機関(IMO)において2016年に採択されました。
翌2017年、当該暫定勧告に基づいて日豪海事当局間にて具体的な貨物タンクの構造や材質、安全設備等を含む液化水素の日豪間での運送要件に合意し、本合意に基づいて1,250m
3の液化水素を運搬することのできるパイロット船(船名「すいそ ふろんてぃあ」)が建造され、2021年12月には世界初となる液化水素の運送に係る実証実験が日豪間で行われました。
今後の国際水素サプライチェーンの商用化には液化水素の大量輸送が必要となるため、現在、1基あたり4万m
3の貨物タンクを4基搭載し、合計16万m
3の液化水素を運搬することのできる大型液化水素運搬船の建造が計画されています。
しかしながら、2017年に合意した日豪間の上記運送要件は、容量1,250m
3の真空断熱システムの液化水素運搬船を想定したもので、現在計画されている大型液化水素運搬船に適用すると、真空確保のためにタンク強度を著しく高くする必要があり、現実的な構造になりえません。
<今回の合意>
そのため、今般改めて日豪海事当局間にて協議を行い、真空断熱システムに替わる新たな貨物タンク断熱システムを追加した液化水素の運送要件を定め、合意しました。新たな貨物タンク断熱システムは、内外二層の殻で構成し、内殻と外殻の間の空間を水素ガスで満たすことにより、高い断熱性能を実現するものです。
この協議の結果を受けて、今後、大型液化水素運搬船の設計が行われることになります。
また、現在IMOにおいて進められている暫定勧告見直しの議論において、今般日豪当局間にて合意した液化水素の運送要件が反映されるよう我が国が主導していくこととしております。
なお、大型液化水素運搬船の実証に向け、船舶に搭載される水素燃料エンジンについても、グリーンイノベーション基金(GI基金)により、技術開発が行われているところです(※2)。
※1 2023年6月6日改定の「水素基本戦略」により2030年以降早期の水素運搬船の商業運航実現を目指している。
※2 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のGI基金により次の開発を実施中。
・「大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクト」:水素の製造から、液化、船への積荷、輸送(船の建造を含む)、船からの揚荷、陸上タンクへの受入までの開発
・「次世代船舶の開発プロジェクト」:船舶用の水素燃料エンジン、燃料タンク、燃料供給システムの開発
GI基金事業については、下記URLをご参照ください。
https://green-innovation.nedo.go.jp/
日豪海事当局間協議の詳細:
(1) 日時:2023年6月16日(金)午後2時~3時(日本時間)
(2) 形式:オンライン会議
(3) 合意事項:新たな貨物タンク断熱システムを含む液化水素の運送要件
(4) 出席者:
(豪州)Mr. Stephen McMeeking: Manager, Ship Inspection & Registration, Operations,
Australian Maritime Safety Authority 他
(日本)桶谷 光洋:国土交通省海事局検査測度課危険物輸送対策室長 他
日豪海事当局間会議の模様
大型液化水素運搬船とパイロット船の比較
※3 内外の殻間を真空に保つためにはタンク強度を著しく高くする必要があり、現実的な構造になりえないため、水素ガスを充填。液化水素の温度は-253℃以下と極低温であるため、水素(沸点-253℃)やヘリウム(沸点-269℃)以外の気体を充填した場合は液化してしまうこと、ヘリウムは希少資源であることから水素ガスを充填。